平尾桂子の研究室

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いたずら好きのサンタクロース

一瞬の出来事だった。

ノックの音にドアを開けると、玄関にサンタクロースが立っていた。

「ホーッホッホー、メリークリスマス!」

ええッ?!なにこれ?!

あっけにとられる私たちに、さっとチョコレートを手渡すと、雪を踏みしめる靴音を残して夜の街に消えていった。

昨年のクリスマスイブ、早目の夕食をすませたあとの突然の訪問だった。さあ、それからが大騒ぎ。

「あれはいったいぜんたい誰だったんだろう……」

夫も私も考え込んでしまった。

隣の大家さんだろうか。いや、背が高すぎる。その向こうのホール家のご主人?声が違う。

隣近所のご主人や友達を片っ端から挙げていったが、思い当たる人はいない。裏の家のご主人のマイクだけは「容疑」が最後まで晴れなかったが、「メガネのかっこうがちがう」という麻里恵の証言でくつがえされた。

「ね、やっぱりホンモノのサンタさんだったんだ~!」

麻里恵は一人ナットクして、自分がもう寝たかどうか下見に来たのにちがいないということに落ち着いた。

次の朝、道で会った大家さんを問い詰めて白状させた「犯人」は、やっぱり裏のマイクだった。

毎年イブになるとサンタの衣装を着て近所をまわり、窓の外からのぞいたり台所をさっと横切ったりして、子どもたちをびっくりさせるのだという。衣装はお父さんからゆずり受けた年代モノ。どうりでスーパーの店先で見かけるサンタとは風格が違う。あとで聞いたらメガネもわざわざ変える念の入れようだったらしい。

「そのくらいの変装はしなくっちゃね。それにしてもマリー(麻里恵)のビックリした顔、おもしろかったなあ!」

そういってニヤっと笑うマイクは高校の数学教師。彼がこんな風にいたずらっぽく笑うのを私ははじめて見た。

ご丁寧なことに、私たちの家に来る前に、これからヒラオのところに回るから見ててごらんと大家さんに電話をいれ、大家さんは大家さんで私たちがびっくりする様子を想像しながら奥さんと窓から見ていたそうだ。

それにしても、こんな他愛のない「瞬間芸」に大のおとながワイワイできるとは、やっぱり老若男女が街をあげて盛り上がるアメリカのクリスマスだ。

「あなたにとってクリスマスとは?」

こう聞くと、周りの友人たちは一様にうっとりした顔つきで、次から次へと楽しい思いでを語ってくれる。

クリスマスツリーにする木を探しに家族総出でツリーファームに出かけたこと。プレゼントと一緒にくばるクッキーをお母さんと焼いたこと。教会のキャンドルサービス、七面鳥、フルーツケーキ、エッグノッグ……。

12月に入ると「待ってました」と華やかさを増す街の家々。豆電球で家を飾りたて、ツリーを用意し、プレゼントを揃える。それでも最近は忙しい人が増えてきて、本来ならば一か月かけて準備するところを最後の一週間でやっつけたとか、ツリーを前の晩に飾ったとか、そんな「突貫作業」の話も珍しくない。

でも子どもがいれば話は別だ。クリスマスの準備を子どもにせがまれて「忙しい、忙しい」といいながら楽しんでいるのは実は大人だったりする。このワクワクして待ちのぞむ気持ちをフルコースで楽しめて「サンタ」までやってきた去年のクリスマスは、本当に素敵だった。

夫のMBA留学に端を発した私たちの子連れ夫婦留学もあれから1年。その間ホームシックにかからなかったのも、「マイク・サンタ」が来てくれたのも、麻里恵が一緒にいたからだ。

この一年間、私たちは多くの友人を得たが、そのうちの少なからずが彼女を通して出会った人々だった。

子はかすがい、というけれど、夫婦の間のみならず、家庭の外に出会いをもたらすかすがいでもあるわけだ。

ところで、最近私たちは引越をした。今度の住居は順番待ちでようやく入れた大学院生向けの家族アパート。ここでも麻里恵は以前と同じく、私たちに様々な出会いと悩みと喜びをくれ、「子どもと見たアメリカ」はまだまだ現在進行形である。

 

『Como』1993年12月号掲載

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平尾桂子 Keiko Hirao

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