平尾桂子の研究室

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サザエさんちの時計

カツオ36歳、ワカメ34歳。

 

名前を聞いただけで、あの磯野家の子どもたち、と分かってしまう仕掛けもさることながら、それ以上に、え、もうそんなに大きくなっちゃったの?という驚き。これが、このCMの「つかみ」である。

 

タラちゃんは28歳、赤ん坊だったイクラちゃんも26歳。

 

大人向けチョコレート菓子の宣伝で、「あ、大人になってる」というコピーが先だったのか、「磯野家の25年後」という企画アイデアが先だったのか、いずれにせよ、まったく年をとらないはずの磯野家の人々も、知らないうちに齢を重ね、その間いろいろあったようだ。

 

デパートのエレベーターガールをしているワカメはリストラされそうだし、ITベンチャーを興したイクラは、超豪華マンションでバブリーな生活をしていたが、会社が倒産して自家用飛行機も手放すハメに。毎日仲良く遊んでいたタラオとイクラの間には経済格差が生まれており、しかも成長の過程でお互いをライバル視していたとか、相変わらず野球ばかりしているカツオは「長男だから」と家を守る覚悟で、まだ独身。ワカメも結婚しなかったら、このまま二人で少子・晩婚化に貢献し、「赤毛のアン」のマシューとマリラのように老いていくのだろうか。

 

このCMから見えてくるのは、人は生まれて成長し、やがて老いて死を迎えるという、ひどく単純明快な現実だ。

 

最初に放映されたのが2008年だから、磯野家の時計が動き始めたのは1983年ということになる。その10年前にはコインロッカー・ベビーがニュースになり、育児ノイローゼや家族の崩壊が社会問題になっている。磯野家の人々が永遠の日常を演じ続けてこられた秘訣の一つは、子どもが小学生で、まだ思春期特有の問題がなく、親が働き盛りで介護の必要もないという、家族サイクルの最も平穏なところで年齢設定をフリーズさせたことかもしれない。

 

それともう一つ、残酷な現実。私が波平やフネと同年代だということ。

 

そんなバカな、と思うのは、私がまだまだ「天命を知る」にはほど遠いからなのだろう。

 

<グリコのチョコレート、[アーモンドプレミオ]と[ディアカカオ]>

 

「悠+(はるかプラス)」2010年4月号 『15秒のスケッチ』

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