平尾桂子の研究室

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転職と天職

「こんな仕事もういやだぁ!」と叫びたくなることは、働いていれば誰にでもあるけれど、世の中にはもっと無茶苦茶でもっと破滅的な職場があることを、人材派遣会社<スタッフサービス>のCMシリーズは教えてくれる。

 

社内メールが伝書バトなんていうのは序の口で、「そこに座りなさい!」と課長に怒られて彼の膝に座るオチャラケなスタッフがいる一方で、ヒラ社員の田中クンは、社長、専務、常務、部長、課長の5人を背負ったまま泣きながらデスクに向かう。新入社員の入社式では年配の役員がバニーガールの格好で登壇し、それを見たフレッシュマンは悲鳴を上げ、我先になだれをうって会場から逃げていく。災害に見舞われた時、レスキュー隊のヘリコプターに真っ先に乗り込むのはバニーガールのおじいちゃん。会社は物理的に傾いていく。そう、こんな職場は一刻も早く脱出すべきだ。

 

ストーリーそのものは「ありえない」はずなのに、なぜか強い既視感におそわれる。横暴な上司、無能な部下、理不尽な職責、そして不毛な派閥争い。どこかで見たような、どこにでもありそうなモラルハザードが15秒の笑いに凝縮されている。

 

CMの最後に紹介されるフリーダイアルの略称は「オー人事、オー人事」。その番号に電話をかける者だけが、悲惨な状況から自分を救うことができる。テーマ音楽はチャイコフスキー。荘厳なメロディーは「天の声」のように響き、電話の向こうには「理想の職場」と「理想の人材」が用意されているような気にさせられる。

 

気がかりなのは電話をかけた後の展開だ。必要な人材をすべて自社で採用・育成できない時代のニーズに合わせてこのようなサービスが生まれたことを考えれば、職場の教育力は確実に低下しており、無能な部下が無能なまま、横暴な上司が横暴なままで放置されている可能性は高い。

 

伝書バトの扱いしか教えてもらえなかったOLが、「そこに座りなさい!」と怒鳴ることしかできない課長の元に派遣される、なんてことになりませんように。

 

<スタッフサービス、[オー人事]>

 

「悠+(はるかプラス)」2010年11月号 『15秒のスケッチ』

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