平尾桂子の研究室

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遊びの原型

学校の教育課程に「内容単元」と「活動単元」という二つのカテゴリーがあると教わった。一つは系統だったカリキュラムに基づき、教師側の主導権で授業が進む。もう一つは活動や経験を通じて生徒が自分で内容を作っていく。

 

同じように、子どもの遊びにも「パズル型」と「積み木型」があるのではないかと思っている。

 

パズル型には前もって用意された解があり、それに到達するプロセスを楽しむ。例えばプラモデルやコンピューターゲーム。そのプロセスが複雑なほど「解」に到達するのも難しく、その代わりに答えが分かったときの喜びも大きい。一つのステージをクリアした時のすっきり感。その快感を得るために、さらに難しいステージに挑戦する。

 

もう一つの積み木型は、与えられた材料を組み合わせて何かを作り出す遊び。粘土細工もこちらに分類される。積み木の数や粘土の量は決められていて、そこから様々な造形を作り出していく。有限から無限を紡ぎだす喜び、これがこの遊びの醍醐味だ。

 

私の最初の記憶は砂場で遊んでいる場面である。昭和の祖末な団地の一角にある小さな砂場。そこで金魚の形をしたブリキのスコップで砂をすくっていた。その団地には2歳までしかいなかったから、多分その少し前のことだったと思う。

 

あれから半世紀もたってしまった。その間私は、遺伝や出自や生まれ落ちた時代背景など、自分ではどうにもならない有限の所与を背負ってきた。与えられたのは小さな砂場。積み木の数が決まっているように砂の量も決まっている。

 

でも、私の砂の量の限界は、あえて例えれば、ピアノの鍵盤のようなものだと思う。たった88本のキーでどれほど多様な音色と情感が表現できることか。88本しかないからこそ、有限であるからこそ、奏でることができる、無限の音楽。

 

この連載のタイトルを決めたとき、心に浮かんだのは砂場で遊んでいる自分だった。小さな砂場の小さな自分は、今は小さなキャンパスの小さな自分であって、本質的には何も変わっていない。授業をこなし、会議に出て、論文を書く、そんな毎日の営みはスコップで砂をすくうこととよく似ている。

 

でも、不思議なことに、この砂場の設計者は、砂の中にダイヤモンドを隠していた。砂をすくっていると、それが時たま見つかるので、それがおもしろく、ついもう少しすくってみたくなる。もっとも、パズルの解とは違って、砂場のダイヤも磨かなければただの炭素の固まりだ。

 

この1年間、見つけたダイヤを少し磨くことができたと思う。

 

お付き合いいただき、本当にありがとうございました。

 

「悠+(はるかプラス)」2010年3月号 『砂場のダイヤモンド』

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平尾桂子 Keiko Hirao

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