小さな起業家たち

クッキー    15セント

ポップコーン  25セント

レモネード   15セント

 

わが家の二軒となりのホール家の庭には、時々こんな看板が出る。この家のマイク(9才)とクリス(7才)が経営するクッキースタンドだ。
簡単なテーブルに自家製のクッキーやポップコーンをならべ、値段を書いた画用紙を貼って準備オーケー。子どものごっこ遊びではない。れっきとした本物の「お店」なのだ。
フットボールで有名なノートルダム大学。ホームゲームがある日には6万人収容のスタジアムが熱狂的なファンで埋め尽くされる。私たちの住んでいるブロックは、ちょうどスタジアムに向かう人の波の通り道にあたるので、ホームゲームの土曜日はちょっとしたお祭り騒ぎになるのだ。
その人出を目当てに、マイクとクリスはクッキースタンドを出店し、お小遣いをかせいでいる。「ノートルダム必勝祈願!」なんてポスターを貼る念の入れようだ。時には、道の向こう側でも小さいスタンドに弟が陣取り、「フランチャイズ方式」をとったりすることもある。
よく見ていると、必ずお父さんかお母さんが、ポーチからそれとなく見ているのだが、決して手は出さない。経営主体はあくまで子どもたちのようだ。
「クッキーやカップケーキはだれが作るの?」と聞くと、「もちろん子どもたちよ」と、お母さんのリダ。「ときどき、技術指導することはあるけどね」
9才と7才の男の子が、自分たちでクッキーを焼いて売っている。しかも大人を相手に。台所育児の上級編といったところだろうか。
「子どもたちがやりたいっていうので任せているけど、お金の大切さを知るのにとてもいいチャンスだと思うのよ」
彼らにしてみれば、これも教育の一貫なのだろう。
そういえば、近所のマッキンリー小学校を見学させてもらったときのこと。昼食どきのカフェテリアの隅に、ポップコーンやクッキーを並べたテーブルがあった。週に一度、6年生の子どもたちが当番でお店を開くのだとのこと。その収益は、年度末に行く遠足の費用の足しにするらしい。食事が終わると子どもたちが次々と買いにくる。ポップコーンが1袋25セント。元手を考えればちょっと高いが、夜店で買い食いする楽しさに通じるものがあるのだろうか、飛ぶように売れていく。
「このポップコーンはあなたが作ったの?」と、店番の男の子に聞くと、
「うん。でもお母さんに手伝ってもらったよ」と、ちょっとはにかんだ答えが帰ってきた。
学校の中で、子ども同士が現金をやり取りする------。そのことに、私はちょっと抵抗を感じないわけではない。
「大丈夫なのですか?」と、校長のミセス・トーマスに聞くと、「何が?」、と逆に聞き返されてしまった。
「たかがポップコーンだけど、そうやって働いて皆のために貢献することは、とても大切なことなの。それに6年生にもなれば、そのくらいの責任は当然持てるわよ」
お金に対する考え方が、日本とはずいぶん違うのだろう。
アメリカの子どもたちは、かなり早いうちからアルバイトをする。スヌーピーの漫画によく出てくるレモネードスタンドをはじめとして、少し大きくなれば新聞配達やベビーシッター。夏の芝刈りや秋の落ち葉かきなども、子どもたちの大切な収入源であると同時に、貴重な社会勉強の場となっている。
同じアルバイトでも、隣に住む大家さんちの息子、アンドリュー(17才)はもっと本格的だ。地元の学校に通う高校生だが、週末にはべースボール・カードのディーラーをしている。これは、手札サイズのカードに有名な大リーガーの写真を印刷したもの。言ってみればプロマイドで、男の子たちのコレクションの対象になっている。アンドリューはこれを商って、月に数千ドルものお金を動かすビジネスをしている。
その収入で、オンボロながらも自分専用の車を維持し、将来大学に通うための学費も稼ぎだしてしまったという。
日本ではアルバイト禁止の高校が多いのよ、と言うと、
「もちろん学校の勉強もしっかりやってるよ。だけど、ビジネスを通して学べることも多いんだ。まあ、ボクは特に成功してるケースだと思うけど」と、悪びれない。
アメリカの子どもたちは、日本では考えられないくらい、早く大人になっていくようだ。

 

『Como』1993年3月号掲載

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