こども店長
「その説明はワタクシが!」
店に来た客と部下の店員の間に割って入り、パワフルな営業を展開する。
赤いブレザーとネクタイ、革靴に白いハイソックス。そして膝には絆創膏。
ご存知、トヨタの子ども店長だ。
『こどもでも、店長なのにと妻なげく』
ベスト10入りしたサラリーマン川柳でも詠まれたくらいだから、きっと日本一有名な店長だろう。
モットーは「これから目線」で、今クルマを買うとこんなにおトクという仕組みを、「分かりやすく」説明する。
たとえば、エコカーの減税額は「アイスキャンディー千本くらい」。補助金は「給食のカレーライスに揚げパンがついてくるようなもの」。残価設定型プランは「月々僕のスイミングスクール代くらいのお金で3年分クルマが買える」など。
こうした例えは、分かりやすいようで、実はよく分からない。そんなことしか言えない小学生が店長に抜擢だなんて、オトナをなめるのもいいかげんにしなさい!と一喝したくもなる。でも、ママにしかられてシュンとしているのを見ると、やっぱり子どもだなあと可愛く思えてホッとする。
このCMは、私たちが勝手に思い描いている「子どもらしい子ども」の姿が見えてくるからおもしろい。
アップルパイとアイスキャンディーが好きで、嫌いなものはグリーンピース。給食のメニューに好物が出るだけで幸せになれる。悔しければ泣き、嬉しければ笑う。喜怒哀楽が分かりやすく、学校では人気者(多分)。
そもそも、学校帰りに車の販売店で店長なんて、まったく子どもらしくない。あの大人びた振る舞いや礼儀正しさも尋常じゃない。だが、一皮むいた素顔は無邪気であどけない子ども、―という風にみせる大人顔負けの演技力。さすが、NHKの大河ドラマでブレイクした国民的子役、加藤清史郎クンだ。
未成年者が関わる事件が起きるたびに、「子どもが子どもらしく生活できない」社会が問題にされる。そんな時代だからなのか、このCMの「店長なのに子ども」というオチに、私は妙に安堵させられる。
<トヨタ自動車、[こども店長]>
「悠+(はるかプラス)」2010年8月号 『15秒のスケッチ』